起業した際の最初の壁は「資金調達」です。資金調達が上手くいかなければ、いくら事業内容がいいものであっても軌道に乗せるまでに時間がかかってしまいます。裏を返せば、起業時に十分な資金調達ができれば安心して事業に専念することができます。起業時の資金調達方法は、金融機関から融資を受ける以外に助成金や補助金を獲得する方法があります。
ここでは「起業時に利用することができる助成金や補助金」についてご紹介します。
1.助成金・補助金とは?
助成金・補助金と聞くと「なんとなく公的機関から給付されるもので返済義務がないもの」と頭に浮かぶのではないでしょうか。確かに助成金と補助金のどちらとも金融機関からの融資と異なり返済する必要がないため、受給することができれば起業するうえで大きなメリットになります。
1-1.助成金と補助金の違い
しかし、実際には助成金と補助金は別物です。この2つの制度の違いをよく理解することで、創業した会社または起業した事業に適した制度を選択することが可能です。
助成金 | 補助金 | |
---|---|---|
交付する機関 | 主に厚生労働省、地方自治体 | 主に経済産業省、地方自治体 |
交付する目的 | 雇用や労働環境の改善 | 産業の育成や施策を推し進めるなど |
交付される金額 | 規模が小さい(数十万円ほど) | 規模が大きい(数百万円~数億円まで) |
申請しやすさ | 随時募集または長期間の募集 | 公募による募集になるため申請期間は数週間から1か月程度 |
受給しやすさ | 基準を満たせば受給できる可能性が高い | 予算が設定されている場合が多く、受給できない可能性がある |
返済義務 | 返済義務なし | 返済義務なし |
受給方法 | 支払いは後払い | 支払いは後払い |
専門家 | 主に社会保険労務士や行政書士 | 主にコンサルティング会社や中小企業診断士、税理士 |
1-2.給付金との違い
広義にとらえると助成金と補助金は、給付金制度の1つと言うことができます。しかし、国の制度で「給付金」とつく場合には「一定の対象者に、一定の取り組みを求めずに現金を給付する制度」という意味合いになります。
例えば、新型コロナウイルス感染症により売上高が減少した事業者へ給付する「持続化給付金」や無条件で給付された「特別定額給付金」などが代表的な給付金です。これらの給付金制度は、給付金を受給するために特別な取り組みが必要なく、受給要件を満たした申請者全員に一定額が給付されます。
助成金や補助金のように何かに取り組まなければ受給できない給付金とは異なります。
2.起業・開業時に助成金・補助金を申請するメリット&注意点
起業や開業時に助成金や補助金を申請するメリットは多くあります。同時に注意点もありますのでご紹介します。
2-1.メリット
返済が不要な資金である
助成金・補助金ともに受給した資金の返済は必要ありません。返済しなくてよい理由は、助成金や補助金の原資は会社と労働者が支払う雇用保険料や国税・地方税などが原資になっているものが多くあるためです。つまり、助成金や補助金の要件に該当している個人や会社は受け取る権利があるため、返済義務はありません。起業・開業時に返済不要の資金が約束されていることで、創業時には大きな助けになります。
第三者からの意見が聞ける
助成金や補助金を申請するためには事業計画書の作成が必要です。事業計画書を作成する過程で、起業する事業のビジョンや目安になる売上高などを明確にすることができます。また、審査がある場合は第三者からの事業に関する意見をもらうことができます。客観的な意見を参考にすることで、より良い事業へ発展させることが可能です。
外部からの信用が得られる
創業補助金などを受給することができれば、金融機関などの外部から信用を得ることができます。受給が決定したということは、国や地方公共機関から事業計画が認められたことになりますので、融資を申し込む際などに有利になります。
2-2.注意点
受給要件や審査がある
助成金を受給するためには受給要件を満たさなければなりませんし、助成金を受給するためには審査を通過しなければなりません。申請すれば必ず受給できるものではありません。
原則として後払い
助成金・補助金ともに原則後払いになります。審査を通過したからといってすぐに入金されるわけではありません。そのため、早急に資金が必要という場合には助成金や補助金で対応することができず、金融機関などからの融資を考えなければなりません。
書類作成に負担がかかる
申請する場合に事業計画書を作成しなければなりません。また、審査を通過した後は資金の使い道などの報告書を作成し提出しなければならないため、書類作成に負担がかかります。特に起業・開業したてで書類作成に慣れていない場合は、思いのほか時間を取られてしまいます。
期間が決まっているものがある
補助金の中には、創業補助金など公募の期限が決まっているものがあります。公募の期限を見逃してしまうと申請することができませんので注意が必要です。
3.創業・開業時のオススメ助成金・補助金10選
実際に創業・開業時に申請できる助成金と補助金にはどのようなものがあるのかご紹介します。
3-1.創業専門の助成金
創業助成事業(東京都)
東京都の助成金で創業5年以内の事業者、または開業を予定している方が応募することができます。人件費や賃借料なども対象になるため利用しやすい制度です。
助成対象期間は交付決定日から6か月以上最長2年、助成率は3分の2以内、助成額の限度額は300万円(下限100万円)となっています。
3-2.事業関連の補助金
ものづくり補助金
中小企業や小規模事業者の製品開発などを支援する補助金です。
補助額・補助率は何度か変更されています。第14次の募集(令和5年4月19日締め切り)では、次の表のようになります。
枠 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
通常枠 | 100~1,250万円 | 1/2(小規模事業者2/3) |
回復型賃上げ・ 雇用拡大枠 | 100~1,250万円 | 2/3 |
デジタル枠 | 100~1,250万円 | 2/3 |
グリーン枠 | 100~4,000万円 | 2/3 |
グローバル市場開拓枠 | 100~3,000万円 | 1/2(小規模事業者2/3) |
上記に加えて、大幅な賃上げ取り組む事業者については、従業員数に応じて補助上限額を最大1,000万円引き上げます。
IT導入補助金
ITを導入し生産性をあげるための補助金です。国が推進するデジタルフォーメーション(DX)政策による補助金で、POSレジシステムや予約・顧客管理システムなどを導入し、利用することで受給することができます。
補助額・補助率は次表のとおりです。
枠 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
通常枠 | A類:5~150万円 B類:150~450万円 | 1/2 |
セキュリティ対策推進枠 | 5~100万円 | 1/2 |
デジタル化基盤導入類型 | (下限なし)~350万円 | 3/4または2/3 |
小規模事業者持続化補助金
従業員が20名以下の小規模事業者を対象とした補助金です。補助金を申請するためには、商工会議所または商工会の助言等を受けて経営計画を作成する必要があります。その経営計画により販路開拓等を行った場合に、その経費の2/3(上限200万円、枠によって異なる)が補助されます。
また、インボイス特例として、免税事業者から適格請求書発行事業者に転換する小規模事業者に対して補助上限額を一律50万円上乗せとなります。
事業再構築補助金
新分野の事業を始める事業者を対象とした補助金です。他の補助金に比べて予算が多く、補助金の上限については1億円となっています。
補助額・補助率は何度か変更されています。第10回の募集(令和5年6月30日締め切り)では、中小企業者向けの成長枠で、補助額が100万円~7,000万円、補助率は中小企業が1/2、中堅企業が1/3です(大規模な賃上げを行う場合は、それぞれ、2/3、1/2)。
3-3.雇用関連の助成金
キャリアアップ助成金
アルバイトや派遣社員などの非正規雇用労働者をキャリアアップさせることを目的とした補助金です。助成の内容によって、次の6種類に分かれています。
【正社員化コース】
非正規雇用者を正社員にすることで助成金が支給されます。助成額は1人当たり57万円(大企業は427,500円)です。
また、派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合など、1人当たり最大285,000円の加算額があります。
2023年4月1日より、加算額が変更され、細分化されました。
【賃金規定等改定コース】
有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定することで助成金が支給されます。助成額は1人当たり最大で65,000円(大企業は43,000円)です。
2023年4月1日より、加算額が変更されました。
【賃金規定等共通化コース】
有期雇用労働者等と正社員との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合に支給される助成金です。助成額は1事業所当たり最大で60万円(大企業は45万円)です。
2023年4月1日より、金額が変更されました。
【賞与・退職金制度導入コース】
有期雇用労働者等に関して賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に支給されます。助成額は1事業所当たり最大で568,000円(大企業は426,000円)です。
2023年4月1日より、金額が変更されました。
【選択的適用拡大導入時処遇改善コース】
有期契約労働者を社会保険に加入させ、基本給を増額させた場合に支給される助成金です。賃金の増額率により助成金の額が異なり、助成額は1事業所当たり最大で568,000円です。
2023年4月1日より、金額が変更されました。
【短時間労働者労働時間延長コース】
アルバイトやパートタイマーなどの短時間労働者の週所定労働時間を延長し、社会保険を適用した場合に支給される助成金です。助成額は1人当たり最大で237,000円(大企業は178,000円)です。
人材開発支援助成金
従業員のキャリア形成を促進させるための職業訓練等を行い、職に関連した専門的な知識や技能を習得させたり、教育訓練休暇制度を規定したりした事業者へ支給される助成金です。
2023年4月1日より、制度の見直しが行われ、一部の訓練コースが統合され、計画届の提出方法が変更されました。7つのコースが用意されています。
人材確保等支援助成金
より良い職場づくりを目標とし、雇用管理の改善や生産性向上などを行った事業者へ支給される助成金です。雇用管理制度の導入や介護事業の介護福祉機器の導入・運用、人事評価制度の導入などで、7つのコースで募集されています(2023年4月1日時点)。
両立支援等助成金
従業員が勤務しながら育児や介護などを両立できるような制度を導入することで支給される助成金です。両立支援の取り組み方によって出生時両立支援コースや、介護離職防止支援コースなど、4つのコースで募集されています(2023年4月1日時点)。
雇用調整助成金
経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業、教育訓練、出向に要した費用を助成する制度です。
新型コロナウイルス感染症の影響により、新型コロナ特例として、助成額は引き上げられていましたが、令和5年3月31日で終了しました。
令和5年4月1日以降は、通常の雇用調整助成金の申請のみになります。
ここでご紹介した助成金・補助金以外にも各地方公共団体に様々な創業支援制度がありますので、お住いの地方自治体の制度を確認してみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は「起業時に利用することができる助成金や補助金」についてご紹介しました。
起業時に助成金や補助金の支給を受けることにより、事業の安定が図れたり、労働環境を整えたりすることができます。ただし、助成金・補助金の申請は書類作成など思ったより手間暇がかかるものも多くあります。また、補助金については支給決定後も採択された事業の管理などを徹底し、報告を行わなければなりません。
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